2018-10-12
ノーベル賞受賞のニュースと薬価など
2018年10月1日、ノーベル医学・生理学賞を京都大高等研究院の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授(76)が受賞したとのニュースが入りました。日本人のノーベル賞受賞は、2年ぶりで、計24人となり、昨年のカズオ・イシグロ氏ら外国籍を含め計27人となったとのことです。医学・生理学賞は、大隅良典氏に続き計5人目とのことです。
2012年の山中伸弥先生がノーベル医学・生理学賞を受賞したiPS細胞の作成、そして、今回の本庶祐先生が受賞したPD-1の発見は、京都だけではなく日本中で話題沸騰ですね。誇るべきことですし、「凄い」の一言です。

本庶先生は、平成4年(1992年)、免疫を担う細胞の表面にある「PD-1」というタンパク質を見つけたと発表しました。マウスを使った実験で、がん細胞への免疫を抑えるブレーキ役として働いていることを突き止めました。
その後、がん治療薬の開発が進み、小野薬品工業が2014年、PD-1の抗体医薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)を発売しました。今では、世界各地の製薬会社がよく似たメカニズムのがん治療薬の開発に乗り出しており、私が勤務した会社もキイトルーダという結構有効な治療薬を2017年に発売しました。私と直接関係あるわけではないのですが、多くの人々の命が救われていることを聞くと、嬉しさを感じます。
気になることは、超高額医薬品です。オプジーボの当初価格は、1回約130万円、1年間投与で3,500万円、その後出たキイトルーダは1ヶ月約120万円でした。当然、国の保険財政がひっ迫してきますので、薬価の手直しが厚生労働省で行われています。がん治療だけでなく、近々、高額医療となる白血病薬1回5,000万円の登場があるとの声が聞こえてきています。
振返ると、抗PD-1抗体「キイトルーダ」は、2016年9月に悪性黒色腫の適応で、2016年12月にPD-L1陽性の非小細胞肺がんの適応で承認を取得していました。実は、「オプジーボ」の薬価をめぐる議論のあおりを受けて発売が先送りされ、2017年2月に発売された経緯があるとのことです。
当然ながら、製薬会社間では、高額医薬品である免疫チェックポイント阻害薬(国内では、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、CTLA-4抗体の3種類)の開発競争が激化しています。例えば、国内での開発競争を展開しているのは、小野薬品工業と米ブリストル・マイヤーズスクイブ、米メルク、英アストラゼネカ、スイス・ロシュ、米ファイザーと独メルクの5陣営といわれています。20年程前、PD-1の抗体医薬に然程の興味を製薬会各社が示さなかった頃と大きな違いですね。
2018年度の医療費・介護費の合計が49.9兆円と試算されていますが、2040年度の医療費・介護費の合計(現状投影)は、92.9~94.7兆円の見通しとなっています。医療介護費は膨れ上がっていきます。

そのような状況の中で、新薬創出するために費用は大幅に増加しています。そして、創出した新薬の数が増加していないため、製薬企業の研究開発における生産性は低下しているといえます。当然、製薬企業としては、投資した研究開発費を回収するために、製品価値の増大化、つまり、多くの患者数を確保するか、一剤当たりの価格を値上げするのかの選択肢しかないとの声が聞こえてきます。
例えば、DiMasiらの報告を見ると、1970年代には新薬一つに要した研究開発費は、179百万ドルだったのが、1980年代には413百万ドル、1990年代には1,044百万ドル、そして、2000年代には2,558百万ドル、1ドル110円で円換算すると2,814億円といわれており、1970年代と比較すると、新薬を一つ創出する費用は、14倍以上に膨れ上がったこととなります。勿論、算出の対象が様々異なるので、伝えられている数値は大雑把なものと言えますが、大雑把に言えば新薬承認までにかかる費用は、一つの医薬品当たり800~1,000億円にもなるとの説明が多いようです。
本庶佑先生は、ノーベル医学・生理学賞の報告のため、10月11日に根本厚生労働大臣を表敬訪問しています。先生は、その折、薬価が高いことを含めて、増え続ける医療費の問題を指摘した上で、予防医療を重視した施策に取り組むよう要望しました。流石です。
チョット飛躍して、ノーベル賞の話題とは月とスッポンの違いですが、私の仕事に関連する領域について話題を広げて見ます。
規制上の検討がどこまで進むのか分かりませんが、開発経費を軽減する方法の一つの話題として「バーチャル治験」があります。つまり、患者・医療者の負担軽減や製薬企業の医薬品開発コストの低減を目的として、モバイル機器や遠隔医療サービスを用いることで、被験者が医療機関を来院せずに、自宅から参加できる「バーチャル治験」の推進の話題を多く聞くようになりました。AIの進化をはじめ、技術革新が様々な産業分野で進む中、製薬会社からのアイデアも注目したいものです。海外では、医療データ等のビッグデータの活用へ向けての動きが急速な展開を見せています。今後、AIの進化を支えて行くためにはデータの量だけではなく、質も問われると伝えられています。日本として、どのように ビッグデータを構築し、アカデミアやIT産業との積極的な協業により生み出される成果物等を知的財産権として確保して行くのか、一定のルールの明確化が必要であることは明らかなことです。現在、治験に係る国内の規制がかなり複雑に感じられます。時代の変化に対応していく検討は、勿論進行中の筈ですが・・・
そういえば、トヨタ自動車とソフトバンクは、10月4日、新たなモビリティサービスの構築に向けて新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」を設立し、2018年度内をめどに共同事業を開始すると発表した。規制産業である製薬会社からの大胆な産業構造の変化があるといいですね・・・

話題が広がり過ぎますので、今後の展開を見守ることにします。
新薬は、通常、保険適用されます。承認当時の「オプジーボ」のように高額な薬価が医療財政の大きな負担となったことから、財務省(主管は厚生労働省ですが)は、費用対効果や財政影響など経済面も評価し、保険適用の可否を判断できる仕組みを導入すべきとして方向転換しつつあります。実際に、「オプジーボ」の薬価は、1瓶(100mg)約73万円から、36万、27万円と下がり、今年の11月には17万円にまで下がることが決定したとのことです。ただし、保険適用外のがんに使うとなれば、全額自己負担となる制度は変化がなく、多くの人々の夢の実現は、もう少し先になるかもしれません。その意味で、今回の本庶先生の受賞のインパクトや、先生が指摘する予防医療へのテコ入れの要請が、人々の幸せへ近づく歩みを速めることを祈っています。
2012年の山中伸弥先生がノーベル医学・生理学賞を受賞したiPS細胞の作成、そして、今回の本庶祐先生が受賞したPD-1の発見は、京都だけではなく日本中で話題沸騰ですね。誇るべきことですし、「凄い」の一言です。

本庶先生は、平成4年(1992年)、免疫を担う細胞の表面にある「PD-1」というタンパク質を見つけたと発表しました。マウスを使った実験で、がん細胞への免疫を抑えるブレーキ役として働いていることを突き止めました。
その後、がん治療薬の開発が進み、小野薬品工業が2014年、PD-1の抗体医薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)を発売しました。今では、世界各地の製薬会社がよく似たメカニズムのがん治療薬の開発に乗り出しており、私が勤務した会社もキイトルーダという結構有効な治療薬を2017年に発売しました。私と直接関係あるわけではないのですが、多くの人々の命が救われていることを聞くと、嬉しさを感じます。
気になることは、超高額医薬品です。オプジーボの当初価格は、1回約130万円、1年間投与で3,500万円、その後出たキイトルーダは1ヶ月約120万円でした。当然、国の保険財政がひっ迫してきますので、薬価の手直しが厚生労働省で行われています。がん治療だけでなく、近々、高額医療となる白血病薬1回5,000万円の登場があるとの声が聞こえてきています。
振返ると、抗PD-1抗体「キイトルーダ」は、2016年9月に悪性黒色腫の適応で、2016年12月にPD-L1陽性の非小細胞肺がんの適応で承認を取得していました。実は、「オプジーボ」の薬価をめぐる議論のあおりを受けて発売が先送りされ、2017年2月に発売された経緯があるとのことです。
当然ながら、製薬会社間では、高額医薬品である免疫チェックポイント阻害薬(国内では、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、CTLA-4抗体の3種類)の開発競争が激化しています。例えば、国内での開発競争を展開しているのは、小野薬品工業と米ブリストル・マイヤーズスクイブ、米メルク、英アストラゼネカ、スイス・ロシュ、米ファイザーと独メルクの5陣営といわれています。20年程前、PD-1の抗体医薬に然程の興味を製薬会各社が示さなかった頃と大きな違いですね。
2018年度の医療費・介護費の合計が49.9兆円と試算されていますが、2040年度の医療費・介護費の合計(現状投影)は、92.9~94.7兆円の見通しとなっています。医療介護費は膨れ上がっていきます。

そのような状況の中で、新薬創出するために費用は大幅に増加しています。そして、創出した新薬の数が増加していないため、製薬企業の研究開発における生産性は低下しているといえます。当然、製薬企業としては、投資した研究開発費を回収するために、製品価値の増大化、つまり、多くの患者数を確保するか、一剤当たりの価格を値上げするのかの選択肢しかないとの声が聞こえてきます。
例えば、DiMasiらの報告を見ると、1970年代には新薬一つに要した研究開発費は、179百万ドルだったのが、1980年代には413百万ドル、1990年代には1,044百万ドル、そして、2000年代には2,558百万ドル、1ドル110円で円換算すると2,814億円といわれており、1970年代と比較すると、新薬を一つ創出する費用は、14倍以上に膨れ上がったこととなります。勿論、算出の対象が様々異なるので、伝えられている数値は大雑把なものと言えますが、大雑把に言えば新薬承認までにかかる費用は、一つの医薬品当たり800~1,000億円にもなるとの説明が多いようです。
本庶佑先生は、ノーベル医学・生理学賞の報告のため、10月11日に根本厚生労働大臣を表敬訪問しています。先生は、その折、薬価が高いことを含めて、増え続ける医療費の問題を指摘した上で、予防医療を重視した施策に取り組むよう要望しました。流石です。
チョット飛躍して、ノーベル賞の話題とは月とスッポンの違いですが、私の仕事に関連する領域について話題を広げて見ます。
規制上の検討がどこまで進むのか分かりませんが、開発経費を軽減する方法の一つの話題として「バーチャル治験」があります。つまり、患者・医療者の負担軽減や製薬企業の医薬品開発コストの低減を目的として、モバイル機器や遠隔医療サービスを用いることで、被験者が医療機関を来院せずに、自宅から参加できる「バーチャル治験」の推進の話題を多く聞くようになりました。AIの進化をはじめ、技術革新が様々な産業分野で進む中、製薬会社からのアイデアも注目したいものです。海外では、医療データ等のビッグデータの活用へ向けての動きが急速な展開を見せています。今後、AIの進化を支えて行くためにはデータの量だけではなく、質も問われると伝えられています。日本として、どのように ビッグデータを構築し、アカデミアやIT産業との積極的な協業により生み出される成果物等を知的財産権として確保して行くのか、一定のルールの明確化が必要であることは明らかなことです。現在、治験に係る国内の規制がかなり複雑に感じられます。時代の変化に対応していく検討は、勿論進行中の筈ですが・・・
そういえば、トヨタ自動車とソフトバンクは、10月4日、新たなモビリティサービスの構築に向けて新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」を設立し、2018年度内をめどに共同事業を開始すると発表した。規制産業である製薬会社からの大胆な産業構造の変化があるといいですね・・・


話題が広がり過ぎますので、今後の展開を見守ることにします。
新薬は、通常、保険適用されます。承認当時の「オプジーボ」のように高額な薬価が医療財政の大きな負担となったことから、財務省(主管は厚生労働省ですが)は、費用対効果や財政影響など経済面も評価し、保険適用の可否を判断できる仕組みを導入すべきとして方向転換しつつあります。実際に、「オプジーボ」の薬価は、1瓶(100mg)約73万円から、36万、27万円と下がり、今年の11月には17万円にまで下がることが決定したとのことです。ただし、保険適用外のがんに使うとなれば、全額自己負担となる制度は変化がなく、多くの人々の夢の実現は、もう少し先になるかもしれません。その意味で、今回の本庶先生の受賞のインパクトや、先生が指摘する予防医療へのテコ入れの要請が、人々の幸せへ近づく歩みを速めることを祈っています。